【感想】仮面ライダークウガ
僕は小さい頃、両親にクリスマスプレゼントとしてアルティメットフォームの人形を買って貰った記憶がある。
僕の中での、一番古い記憶だ。
A New Hero. A New Legend.
僕は今、絶賛就活中の大学四年生。九月を目前にして未だに内定もなく、数多の御社に足しげく通い詰め、足蹴にされるゴミ。
そんなゴミが、まだ幼稚園に入ったばかりの三才児だった頃に、この作品は生まれた。
前作、仮面ライダーBLACKから10年、Jから6年の月日が経ち、既に"仮面ライダー"というブランドそのものが過去のものへと風化して、「他にネタがないから」という理由でテレ朝の枠に収まったクウガは、風化した過去のブランドを徹底して破壊する、異例づくしの仮面ライダーだった。
一例を上げるとすれば、
・敵怪人に対してクウガとの連携を取り、戦闘のアシスト・市民の避難をサポートする有能な警官たち
・戦いの外側にいる一般人の悩み、社会に対する問いかけなどのヒューマンドラマ
・ご都合主義・設定破綻を極限まで取り除き徹底して追求したリアリティ
・元トライアル全日本チャンピオンを使った贅沢なオートバイスタント
等々、他の仮面ライダーと比べてもその異質さは歴然である。
当時3才だった自分はそのリアリティも拘りも分からないガキだったが、その新しいヒーローの姿に惹き付けられ、メインテーマのCDを買い毎日聴き入るほどハマっていた。
そんな当時の記憶などほとんどなく、前提知識ゼロ、大学生目線で観たクウガは、文句なく面白かった。
キャラクターが良い。
主人公の五代、相棒の一条、研究者の沢渡、医者の椿……それぞれにドラマがあり、それぞれに意志がある。ただの作り物のキャラクターではなく、確かな意志を持った"そこに生きる人々"として描かれている。
物語が良い。
古代から甦った怪人"グロンギ"。それに対抗する力を持つ古代人のベルト"アークル"。その力によって戦う宿命を背負った戦士"クウガ"。怪人と人間との知恵比べ、怪人・クウガ・警察の全てが成長し、互いに対抗策を練り戦力が均衡する、緊張感。
設定が良い。
先に挙げた古代文明や怪人は言うに及ばず、現実世界の交通機関や警察に取材し、「もしも怪人が出たらどうするか」なんて質問をしながら練った、リアリティのある組織設定。敵怪人グロンギの言語や古代文明の文字など、神秘性と独特な魅力ある設定に溢れた、 作品の奥行き。
クウガが良い。
基本フォームに加え、高速移動・感覚強化・筋力増強の各フォームの使い分け。新しいフォームが出れば前のフォームが腐るということがなく、全てのフォームに一長一短が存在する、戦略性。
あらゆる側面から隙が無く、完成した仮面ライダー、それがクウガであると断言できる。異質ではあるが、これこそが本来あるべき、本当の仮面ライダーの姿だと思わせる、それほどの精巧で緻密、リアルで大胆な作品。
まるで現実世界で本当に起こった事件のように錯覚させ、クウガとグロンギの戦いを緊張感を持って視聴させる。脚本や監督の拘りは、作品冒頭に映される「この作品を 故 石ノ森章太郎先生に捧ぐ」の一文に恥じぬものとなっている。
まだ見ていない方は、初の令和ライダー「ゼロワン」を前に、一度平成の原点を振り返って見てはどうだろう。
同じ平成の時代を生きて、戦ったクウガという戦士の姿を、是非その目に焼き付けて欲しい。